海底ケーブルに対する脅威

 海底ケーブルに対する敵潜水艦や潜水活動の脅威は、国際間通信とインターネットを危険にさらします。。。というメモ。

日本周辺の海底ケーブルマップ  image: TeleGeography Submarine Cable Map

 このブログも意外と様々な国からのアクセスがありますが、このようなインターネット環境は今では当たり前になっていますね。しかし、このインターネット環境はバーチャルで何か誰も触れない人工衛星&宇宙を介しているように感じるかもしれませんが、実際は非常に物理的な「ケーブル」、海底のケーブルを通じて繋がっています。実際、国際間の音声やデータ、ビデオ、そしてインターネットの情報の98%はこれらの海底ケーブルを経由しています。

 海底ケーブルは1850年8月、イギリスがドーバー港からグリ・ネ(Gris-Nez)岬の間に電信ケーブルを敷設して、フランスに送信したのが発祥で、技術革新によって1990年代、海底ケーブルの 電線が同軸ケーブルから光ファイバーに換装されて、インターネット通信が増大しました。
現在では、簡単にいえば、これらのケーブルは国際間の通信システムの基幹であるだけでなく、国際金融システムと世界のインフラストラクチャにとっても絶対的なものです。

 これらのケーブルは民間企業が保有し、整備していますので、悪意とその手段を持っている人は誰でも私たちの生活に大きな影響を与える可能性があります。

 潜在的な影響の大きさを考えてみると、米国の通称 CHIPS(ちっぷす)、正式名称 : Clearing House Interbank Payments System(クリアリングハウス銀行間支払システム)は、アメリカ合衆国に存在する民営の大口資金移動向けクリアリングハウスです。一日の取扱い金額は 1兆ドルを上回り、一日当り約 250,000件の銀行間決済を扱っています。したがって、これらの海底ケーブルに関して、悪意のある国家やテロ組織のいずれかの手による改ざん行為や破壊行為は、短時間で数十億ドル相当の経済的損害を引き起こす可能性があります。

 脆弱な海底ケーブルの負の結果を歴史から見てみると、第一次大戦中、英国はドイツの殆どの海底ケーブルを破壊しました。これによりドイツ側の様々な通信を広範囲で制限することができました。また、1959年にはカナダ東岸で、ソビエト連邦の漁船により4日間で5本の大西洋横断ケーブルが切断されました。(この時ソビエトが何をしていたかについては決定的な証拠はありません。)同じような切断は太平洋でも1965年と1966年に起きています。

 (日本ではテロでは無いですが、2006年12月、台湾南西沖の地震により、日本と東南アジアの通信に障害が発生し、復旧するまでに約1か月を要しました。また 東日本大震災時、日米間および日アジア間を結ぶ海底ケーブルが一部破損して、 ルーティングによる応急対策が行われました。特に日米間の海底ケーブルの殆どが震源地の海底を伝わっており、完全に復旧したのは同年8月でした。)

海底ケーブルの国際法適用の限界:
 国連はサイバー空間の国際的な規範を作るべく取り組んでいますが、海底ケーブルに及ぶものではない様です。

 NATOサイバー防衛センター(Cooperative Cyber Defence Centre of Excellence: CCD COE)では、直接的に死者、負傷者、重大な破壊行為を引き起こすサイバー攻撃は武力行使と見なしており、自衛権行使(国連憲章第 51 条)の対象にしています。その防御対象は、サイバー空間を創り出す情報システムおよびネットワークとその構成要素(特にコンピュータ)であって、海底ケーブルを含むものかどうかは明らかにしていません。また、沿岸国の領海内において潜水艦やUUVが、タッピングにより海底ケーブルを傍受する活動でさえ、主権侵害の是非をめぐって意見の一致が無く、現行の国際法を海底ケーブルのサイバー空間に適用できるか否かは不透明な状態のようです。

日本国内での議論:
 衆議院のウェブサイトには「国際海底ケーブルの保護についての法制に関する質問主意書」とそれに対する「衆議院議員逢坂誠二君提出国際海底ケーブルの保護についての法制に関する質問に対する答弁書」が記録されています。

質問の一部:
六 「武力攻撃の一環としてサイバー攻撃が行われた場合には、自衛権を発動して対処することは可能と考えられ」、「その対処の方法については、当該武力攻撃の状況に応じて個別具体的に判断する必要」があるとされるが、物理的に複数の海底ケーブルを破壊し、わが国のサイバー空間に混乱を生じさせようとする者が次に掲げる行為を行った場合、自衛権の発動の要件になり得るのか。
 あ) わが国の領海内で海底ケーブルを破壊した場合
 い) わが国のEEZ内で海底ケーブルを破壊した場合
 う) わが国の大陸棚で海底ケーブルを破壊した場合
 え) 公海で海底ケーブルを破壊した場合

回答:
六について
お尋ねの「物理的に複数の海底ケーブルを破壊し、わが国のサイバー空間に混乱を生じさせようとする」の意味するところが必ずしも明らかではないが、いかなる場合が「武力の行使」の三要件を満たすかは、実際に発生した事態の個別具体的な状況に即して、政府が全ての情報を総合して客観的、合理的に判断することとなるため、お尋ねについて、一概にお答えすることは困難である。

ー2022年1月追記ー(産経新聞引用)
 政府がインターネットなどの国際通信の重要インフラである海底ケーブルの陸揚げ拠点の分散に2022年度から本格的に乗り出す。海底ケーブルは主に太平洋側に敷設され、陸揚げ拠点も東京圏などの一部地域に集中。経済安全保障上のリスクや地震をはじめとする大規模災害への強靱性を高めるため地方への分散を支援すると同時に、デジタル技術の活用で都市と地方の格差を解消する「デジタル田園都市国家構想」の実現に取り組む狙いもある。

 岸田文雄首相は21年11月中旬にケーブル分散を指示し、21年度補正予算に約500億円の基金創設を盛り込んだ。事業者らに太平洋側以外へのケーブル敷設や東京圏以外の陸揚げ拠点の設置を支援する。22年度から公募を始める。

 政府はデジタル田園都市国家構想で「デジタル田園都市スーパーハイウェイ」として3年程度で日本を一周する海底ケーブルを完成させ、データセンターを地方に5年程度で十数カ所整備するとしている。基金では日本海側を周回するケーブルや、サーバなどを置くデータセンター設置も支援し、地方活性化につなげたい考えだ。

 海底ケーブルを巡っては、中国が巨大経済圏構想「一帯一路」を通じて途上国への敷設を後押しし、中国企業がシェア拡大を狙う。ただ、データが中国政府に筒抜けになる懸念があり、米国や日本、オーストラリアが協力して南太平洋島嶼(とうしょ)国などの敷設の支援に乗り出している。
ー追記終わりー

対処方法:
 (米国において)ケーブルの敷設と修理に関して現在の方法は、摩耗、裂傷、偶発的な損傷に対してはうまく機能しますが、意図的な攻撃が発生した場合の対応はまだ整備が整っていないようです。

 米国では、2020年米国防権限法(National Defense Authorization Act)により、米国政府がケーブルシップセキュリティプログラム(CSSP – Cable Ship Security Program)と呼ばれるプログラムを介してケーブル修理船を通信会社に保持させることにより、テロなどの非対称攻撃に対してのダメージ軽減が検討されています。

 CSSPの概念は、「運行補助制度」Maritime Security Program(MSP)を参考にしています。
運行補助制度は、有事の際に徴用できる自国籍商船隊の維持に関するMaritime Security Actに基づき、1996年から導入された制度です。2011年に2025年まで有効期間が延長されました。国家安全保障の観点から、軍事的有用性のある近代的で効率的な外航商船を平時と有事の両方において維持することを目的に、MSP対象船となる見返りに他国籍船より割高な米国籍船の運航コストを部分的に相殺するための補助金を支給するものです。
 同じような概念でCSSPの場合、米国に接続するケーブルが悪意ある活動により損傷、破壊、または改ざんされた場合、CSSP船が起用されます。

以上、面白いトピックだったので自分なりにまとめてメモしてみました。

参照リンク:
https://www.c4isrnet.com/battlefield-tech/c2-comms/2020/01/30/the-greatest-risk-to-national-security-youve-never-heard-of/
https://jpn.nec.com/kids/himitsu/07.html
https://www.submarinecablemap.com/
https://ccdcoe.org/research/tallinn-manual/
http://nda-repository.nda.ac.jp/dspace/bitstream/11605/124/4/2-3.pdf
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a196452.htm