ボーイング787やエアバスA350は皆さんもご存知の通り複合材を多用した飛行機としてゼロから作った飛行機です。
しかし、787とA350以外で近年デビューした旅客機の多くは、A320neoや737Maxのような、これまで飛んでいた飛行機に新しい技術を取り入れ、”ビッグ・マイナーチェンジ”を行なった機体がデビューしてきました。777Xも787の経験を生かして主翼には複合材を採用していますが胴体はこれまでとほぼ変わらない(ちょっと長い)”ビッグ・マイナーチェンジ”ですね。
これらの”ビッグ・マイナーチェンジ”のなかで一番分かりやすい”チェンジ”部分はエンジン燃費です。
- 過去10年間で旅客機用エンジンが成し遂げた燃費改善について
* 一番触りやすいバイパス比BPR
* 高い技術が要求されるエンジンコアと燃費の関係 - 今後デビューするエンジンがどれだけ燃費等で改善できるのか?
* 物理的限界 - まとめ&新たな推進方式
過去10年間で旅客機用エンジンが成し遂げた燃費改善
エンジン効率の進化は、過去何十年にもわたって新しい高燃費効率旅客機の中心となってきました。
例えば、Airbus A320ceo*からA320neoへ変わることでエンジンの燃料消費量を15%以上削減しましたし、ボーイング787で採用されているGEnx-1エンジンは、モデルチェンジの対象となったボーイング767で採用されたエンジンCF6-80C2よりも燃料消費量を12%削減しました。多くの例で二桁台の燃費向上を果たしたわけです。*(A320neoが開発されたことにより、初期型A320はA320ceo(current engine option)と呼ばれる。)
それでは、今後5年〜10年の間も新しいエンジンが出てくる際に二桁台の進歩を維持出来るでしょうか?可能性はもちろんゼロではないですが、非常に難しいでしょう。恐らく今後でてくるエンジンの燃費効率は一桁台にとどまると思われます。
- 一番触りやすいバイパス比BPR
何故か? それは、これまでの旅客機用エンジン開発において一番燃費改善に直結した部分を使い切ってしまったという理由です。それはエンジンのバイパス比(BPR)の改善です。それ以外には、何か新素材を使用できるようになるとか、そのレベルの開発の余地しかなく、恐らく二桁台の燃費向上には繋がらない部分しか残っていないと言ってしまってもいいでしょう。(※ バイパス比 ー ターボファンエンジンにおいて、ファンノズルのみを通ってエンジン後方に排出される空気流量と、圧縮機、燃焼器、圧縮駆動タービン、ファン駆動用タービンなど、エンジンのコア部分を通って後方に排出される空気流量比のこと。)例えば、従来のA320ceoに使用されていたCFM56-5Bエンジンのバイパス比BPRは5.5でしたが、A320neoで採用したLEAP-1A32のバイパス比BPRは約11となり100%の増加です。もう一つの採用エンジンであるIAE V2500はBPRは4.5でしたが、新しいPW社製の1100GTFエンジンではBPRが12となり、167%増加しました。これらがA320ceoがA320neoシリーズになり15%の燃費向上を果たした大部分を占めています。
- 高い技術が要求されるエンジンコアと燃費の関係
勿論、エンジンの巡行時のエンジン圧縮比もコンプレッサーやタービンの高効率化により27から32とエンジン・コアの部分で変更されています。しかし、これらはコア熱効率を50%から55%に高めるにとどまり、二桁台改善させるアイテムとはなっていません。エンジンの総合的な効率改善は推進効率 × 熱効率であるため、エンジンの効率向上はバイパス比の増加に左右されていることがわかります。実際にはBPRの増加によって引き起こされる比推力の減少です。比推力は、エンジン後方から出る空気(排気)平均速度の尺度です。この速度と周囲の空気の速度の差が小さいほど、推進効率は高くなります。(※ 推進効率=2/(1+排気ガス速度(V’)/機体速度(V) )
この例で一番新しい例が、ボーイング777で使用されているGE90シリーズエンジンから、新しい777Xで使用されるGE9Xへの移行です。GE90ファミリーは(シリーズで違いはあるものの)、8.4から9ほどと比較的高いBPRです。これがGE9XではBPRを10に増やし、20%増となっています。しかし、ファン、コンプレッサー、タービン、CMCコンポーネントを採用しさらにコアの効率を向上させたにもかかわらず、GE90からGE9XでのTSFC(推力比燃料消費量)は10%改善にとどまっています。
今後デビューするエンジンがどれだけ燃費等で改善できるのか?
- 物理的限界と新たな推進方式の関係
結論からだと、今後5ー10年間で出てくるであろうエンジン(従来のエンジンスタイルとして)の燃費効率は二桁台は出ないと思います。エンジンサイズを大きくしてバイパス比BPRをさらに大きくすればいいじゃないと思うかもしれませんが、もはや物理的に不可能です。777のエンジンを見て頂ければ理解できると思いますが、あれ以上大きくしたエンジンを従来の旅客機の翼に下に取り付けることはできませんし、エンジンを大きくする事による重量の増加も無視できないファクターとなります。
例えば、エアバスA320ceoで使用していたCFM56からA320neoのLEAP-1Aの変更でエンジンの直径は1.55M(61インチ)から1.98M(78インチ)に増加しました。これに加え高圧コアの重量が加わる事で、エンジンナセルも含めてエンジンの重量は3トンから4トンに増加し、33%増となっています。重量増加(=抵抗増加)に対しての解決策は、より高いアスペクト比の翼(簡単にいえば長い翼)の採用が解決方法となりますが、機体のサイズはほぼ変えない“ビッグマイナーチェンジ”ですから。このように高バイパス比、燃焼効率改善の為のエンジンコアの採用と効率は上げてはいるものの、増加した誘導抵抗によってゲインした効率が部分的に消滅していることがわかります。
まとめ & 新たな推進方式
エンジンファンケースや各コンポーネントを新素材で軽くする余地はまだあるかもしれませんが、一番燃費に直結した物理的なサイズ(=バイパス比)の部分に関して限界にきているということから、燃費効率の改善は今後は二桁台を達成できる可能性は低く、地味な改善にとどまると思われます。
また、これが近年、オープンローターエンジンなどのターボファンエンジンと同等の高い飛行速度を実現し、ターボプロップ並みの燃費を実現させるエンジンが再び研究されている理由です。
戦闘機用ジェットエンジンでは「アダプティブエンジン」などの新しいエンジンシステムの開発が進められています。これについては別記事で書いております。
最後まで読んで頂き有難う御座いました。
↓おまけリンク (インターネットから)
Is the new GE9X engine on Boeing's 777X as big as a 737 fuselage? No. It’s even bigger. pic.twitter.com/x2s3XXwZTC
— The Air Current (@theaircurrent) January 4, 2019
参考資料リンク:
ゼネラル・エレクトリック GEnx (General Electric Next-generation) Wikipediaリンク
ゼネラル・エレクトリック CF6 Wikipediaリンク
CFMインターナショナル CFM56 Wikipediaリンク
CFMインターナショナル LEAP Wikipediaリンク
インターナショナル・エアロ・エンジンズ V2500 Wikipediaリンク
プラット・アンド・ホイットニー 1100GTF Wikipediaリンク
ゼネラル・エレクトリック GE90 & GE9X Wikipediaリンク