Adaptive Engine – アダプティブ・エンジンについて

数年前から開発が進められている新しいスタイルのエンジン「Adaptive Engine」ーアダプティブ・エンジンに関してメモ。

  • なんぞや?どんな仕組み?(ターボファンエンジンの基本的な仕組みをご理解の上で)
  • 歴史は?
  • 搭載されるとどんな性能向上が?

なんぞや?どんな仕組み?

 アダプティブエンジンは、タービンコアをバイパスするエアフローを変化させることで機能します。
これはこれまでのターボファンエンジンには無かった新たなエアフロー経路をエンジンに設けて、クルーズモードで飛行しているときに、この3番目の経路を開くことにより、タービンコアをバイパスするエアフローを変化させることで可能となります。
コアのエアフローとバイパスのエアフローに加えて、この3番目のエアフローは、推力を発生させるエンジン効率を高め、エンジン内の新しいヒートシンクともなります。
その結果、エンジンは、ある状況ではターボジェットのハイパワーを発生させることもでき、クルージング時には高バイパス比のターボファンエンジンの燃焼スタイルに変更することができます。

非常にわかりやすいGE社の動画をYoutubeで見れますので、後ほどご覧ください。本文最後にリンクを貼っておきます。

歴史は?

 初代(?)は、1980年代後半から1990年代初頭にかけてアメリカ空軍の先進戦術戦闘機(ATF)計画のために設計・開発されました。ゼネラル・エレクトリック社(現GE Aviation社)が「YF120-GE-100 Double-bypass variable-cycle engine」というエンジンを開発しました。

このエンジンは、低速時にはターボファン、高速時にはターボジェットと飛行状態に応じて作動のサイクル(方式)を切り替える事のできる可変サイクルを採用していました。

しかし、ATF計画ではプラット・アンド・ホイットニー社のF119に採用を奪われています。
公式ではありませんが、YF120-GE-100はYF119-PW-100に比べて推力は勝るものの、YF119は期待された推力を満たしつつ、低価格であったためとされています。また、可変サイクルは流入空気の切り替えバルブを必要とするなど機構が複雑となり、開発と生産コストの増大、開発の技術的リスクも大であることが懸念されたためとされています。

「The Projects of Skunk Works」には同エンジンを搭載したYF-23は、マッハ1.8の超音速巡航を維持できたと書かれています。
後に、同エンジンをベースにGE/R-R社でF136というエンジンを共同開発しましたが、これは予算からキャンセルされています。

搭載されるとどんな性能向上が?

 この復活したコンセプトは現在、F-35プログラム用にGE社とP&W社がAETP(Apative Engine Transition Programme)プログラムでそれぞれ開発を行っています。また、ユーロファイター・タイフーン戦闘機用のRR社製EJ200エンジンに関しても、推力、航続距離、信頼性向上を目指し「adaptive power and cooling techniques」ーアダプティブパワーと冷却技術ーを用いる計画があります。

米空軍はこのアダプティブエンジンの技術により、燃料効率が25%、推力は10%向上し、排気熱に関しても大幅に改善できると考えています。

2016年にGE社とP&W社の両社は、2021年までにこの実証エンジンを開発する為、それぞれ$1Billion(約1,000億円)の契約を締結しています。
実証エンジンはGE社が「XA100」、P&W社が「XA101」という名前で開発されています。このプログラムが成功すれば、F-35戦闘機に搭載されているP&W F135エンジンは、2020年代半ばにはどちらかのエンジン、もしくはどちらかのエンジンを選択する形で、採用される予定です。

今年(2019年)2月にGE社はXA100エンジンの設計が完了したことを発表しています。同社はこの新たなエンジンは航続距離で35%向上し、空中滞在(loiter)時間に関して50%向上させるとみています。

これはF-35Aの場合、機内燃料は8,280kgで、航続距が1200海里(nm)/2,200kmですが、35%+で420海里(nm)/770km増加し、1620海里(nm)/2970km飛行可能となります。(F-35Cは機内燃料は9,000kgで、航続距が1200海里(nm)です。F-35BはSTOVL機でリフトファンなどの機構があり機内燃料は6,130kgで、航続距が900海里(nm)です。)

 F-35戦闘機はBlock 4アップグレードで増槽タンクの使用などが可能になると言われていますが、ステルス機としての能力を活かすには望まれないチョイスです。また、中国の新しいPL-XXと呼ばれている新型ミサイルなどは、戦域外にいる給油機やAWACSなどの高価値目標(High Value Target)を標的とすることを狙っています。そのような脅威や、相手国のレーダー網からできる限り給油機を守るためにも、ステルス戦闘機の航続距離向上は戦略的な価値があります。また、航続距離拡大によりF-35戦闘機の作戦基地を減らすことにも寄与します。

アダプティブエンジンに関して書いてみました。

参照リンク:
https://en.wikipedia.org/wiki/Adaptive_Versatile_Engine_Technology