三菱スペースジェット M100の開発見合わせ M90は継続 – COVID-19

MITAC M90 @ Paris Air Show 2019 Photo: 筆者撮影

 三菱重工業は5月11日、子会社の三菱航空機が開発中のリージョナルジェット機「三菱スペースジェット(MSJ、旧MRJ)」の開発費について、今年度は前年度の半分にあたる600億円程度に圧縮する方針を明らかにし、また、北米市場向けの70席クラス「M100」は検討作業を見合わせ、新型コロナウイルス収束後の市場動向を見極める様です。

このニュースを見るとM100のプログラムがキャンセルされるのか?と疑問に思うかもしれません。が、それは無いでしょう。このプログラムは三菱重工にとって生涯に1度のチャンスで、航空業界で真のグローバルパワーになる機会を逃すことになるからです。もしキャンセルする様なことがあれば、日本株式会社としてもそのチャンスを逸することになるからです。多分。。。

  • 当初の市場投入時期(EIS)
  • スコープクローズに重すぎ
  • リージョナルジェットの世界で新入生
  • 認定作業
  • 再設計
  • 研究開発費を半減
  • RJ市場の回復
  • 一生に一度のチャンス
  • 今後

当初の市場投入時期(EIS):
M90に関しては2021年、M100に関しては(正式なローンチは無いですが)2024年頃だったかと思います。以前はMRJ90として知られていたM90のEISは、6度の延期があり2021年となりました。しかし、(ボーイングの下請けで作ってきた機体部品では無く)民間航空機全体を設計する経験がなく、民間航空規制に準拠するには、MRJ90の大幅な再設計が必要でした。これにより、EISタイムラインが大幅に増加しました。

スコープクローズに重すぎ:
M90は航空機の最大マーケットである米国で事実上“売れない”状況になっている。米国の大手航空会社とパイロット組合間にある労使協定の「スコープクローズ」が、地方路線で飛ばせる機体の大きさを制限しており、M90はそれをオーバーしているためです。この誤算は三菱重工とその子会社である三菱航空機株式会社(MITAC)だけではありませんでした。
エンブラエルは、競合するE175-E2で
同様に誤算をしました。この機体も現在のスコープには重すぎます。エンブラエルとMITACは、スコープが今年緩和されると信じていました。 今後数年間、スコープが緩和される可能性はありません。 MITACは、MRJ90をベースに、スコープに準拠した小型バージョンのM100を開発しました。 M100の設計変更がMRJ90に適用され、MITACが「認定可能な」飛行機と呼んだものを再設計しました。これがM90となり、この機体では900箇所以上のデザイン変更がありました。

リージョナルジェットの世界で新入生:
三菱重工・MHIはTier 1の民間航空機下請け事業を何十年も前から行ってきました。ボーイングとのパートナーシップは深いものです。三菱重工は787の主要な産業パートナーです。これ迄の歴史は三菱重工にとって航空機製造の貴重な経験を提供しました。 三菱重工の民間航空機開発への進出は数十年前にさかのぼります。リージョナルジェット(RJ)が40〜50シートのバージョンだったとき、同社は航空会社にRJに何が必要かについて調査しました。 RJが成長するにつれ、MHIのコンセプトもMRJ90およびより小型のMRJ70に発展しました。 しかし、Tier 1の下請け事業の経験も、本格的な飛行機のデザイナーになることとは大きく異なります。 もちろんMHIは多くの戦闘機事業で戦闘機を製造しましたが(殆どがライセンス生産で、ゼロから生み出していない)、民間航空機製造と認定制度はまったく別の分野です。スコープに関する誤った計算に加えて、MITACは経験不足のためにM90の機体の重要な安全設計を見逃し、多くの重要な機体機器を旧ボーイング設計者などが一目で非常識だと分かる場所に設計配置することで、機体に重大な障害を発生させる可能性がある機体をこれまで何年も気付かずに製造してきました。これらを修正したのがFTV10号機です。

認定作業:
(上記のようなことから、)MRJ90は、航空局やFAAが認定できる飛行機ではありませんでした。さらに、日本の航空局は、1960年代初頭のYS-11以降、国産の民間航空機を認定した経験がありません。これも非常に長いプロセスの原因となっています。
また、ボーイング737 MAXの認証をめぐる国際的な騒動も、日本の航空局にストップをかけたでしょう。間違ってもFAAと同じミスを犯したくは無いですから、これまたダブルで安全運転&スロー走行となり、認証プロセスは恐らく世界最遅で進んでいると思われます。これらの要因+再設計によりプログラムローンチに生まれた子供は中学生になっており、引き渡しごろには高校お受験となります。

再設計:
MRJをスコープに準拠した認定可能な飛行機に再設計することは、民間航空プログラムを継続するために大胆で勇気ある決断でした(お金もかかります)。
M100は、現在そして今後10年にわたって存在する可能性があるスコープに完全に準拠しています。機内は、航空会社によるあらゆる構成要件を満たすために最大限の柔軟性が得られるように再設計されました。経済性はMRJ90よりも2桁改善されました。 M100はE175-E2との競争力のある経済性を備えており、E175-E1に比べて経済的に非常に有利です。
MITACはM100に関して495機分の覚書MOUを得ているようです(MRJ90のピーク注文のほぼ2倍)。 COVIDが発生する前に、今年はさらに数百の注文が予想されていました。これらのMOUを確定注文に変換するには、MHIから正式なプログラムの立ち上げが必要でした。←ここを今回COVIDの影響で再度見極めなければならないとしたところです。

研究開発費を半減:
研究開発費を半減するMHIの決定は、エアバス、ボーイング、エンブラエルによるコスト削減の動きと一致しています。 また、M100での開発の一時停止は、 3社すべてで新しい飛行機の開発は中断したのと同様です。
M
90認定の進捗を継続するというMHIの決定は間違っていません。 MITACと日本の航空局は、認定プロセスを終わらせる必要があります。そうすることで、(MHIが最終的にM100プログラムをローンチしたとして)M100をより迅速に認証できる経験値を得るからです。しかし、M100の開発をスローに継続するのではなく、延期する決定は誤りです。(何年後かという質問はありますが、)需要は回復するからです。

RJ市場の回復:
リージョナルジェットの需要は、主要エアラインよりも回復が遅くなります。世界中の主要航空会社は、リージョナルジェットを運行するパートナー企業エアラインを利用する前に、自社のパイロットと客室乗務員とともに自社のジェット機を使用して旅客事業を再開する可能性があります。米国では、スコープクローズの制限には、メインラインサービスに対するリージョナルジェットとパートナーの比率も含まれます。

広大な地域を抱え、代替移動手段が無い地域では、リージョナルジェットサービスが必要です。ヨーロッパ、日本、中国など新幹線が存在する地域とは異なり、米国、カナダ、オーストラリア、ラテンアメリカ、アフリカでRJ以外の代替案は車の運転以外に選択肢はほとんどありません。また、アジア太平洋の島々が広がっている地域も同様に代替案はありません。

一生に一度のチャンス:
三菱重工は、一生に一度の商業航空のグローバルプレーヤーになる機会に直面しています。RJ業界からボンバルディアの撤退により、MHIとエンブラエルはRJ機体の唯一の西側サプライヤーです。
現在、中国とロシアには国産機の開発を行ってはいますが、殆どが自国内向けで、西側世界では販売できる可能性は小さいでしょう。中国もグローバルプレーヤーなる野心があり、長い年月をかければ可能かもしれませんが、より良いポジションにいるのは三菱重工です。

エンブラエルは、ボーイングの合弁事業の失敗により、現在のところ弱体化しています。その製品ラインは、そのPRが宣伝するほど強力ではありません。 E175-E2は米国設計の機体で受注ゼロです。 E175-E1の設計は2024年には25年モノの機体となりますし、使用されているエンジンは1982年に遡る古代技術です。 M100はすべての面でこれを上回ります。対25年前の技術に対してですから当然かもしれませんが。

今後:
三菱重工は、M100の開発を中断すべきではありません。COVIDの影響による需要とタイミングを再評価しながら開発ペースを遅くすることは理にかなっています。
取引が
6月1日に完了する予定のBombardier CRJプログラムは、SpaceJetに即時のグローバルでの機体サポートネットワークを提供するために購入されました。 SpaceJet開発をキャンセルすることは、この購入を無駄にすることになります。
三菱重工業は5月7日、Bombardier CRJプログラム事業を買収することにより、2021年3月期に500-700億円程度を減損処理する見込みだと発表しました。基本的に、この「ゼロベース」の予算操作は、利益をすぐに報告できることを意味します。しかし、CRJプログラムは20年で過去のものになるでしょう。 SpaceJetがなければ、MHIには他にどのような新しいビジネスチャンスがあるのでしょうか?

今後2030年に向けて95人乗りのM200や110人乗りM300などを開発することは、航空業界で主要なグローバルプレーヤーになるための基礎を築くことができます。

これをしなければ、三菱重工の民間航空機部門は一生エアバス、ボーイング、エンブラエル(もしかしたら中国も)の航空機部品下請け会社であり続けるだけとなってしまうでしょう。

MITAC M90 @ Paris Air Show 2019 Photo: 筆者撮影