アメリカで巻き起こっていた5G通信の電波に関する論争がついに日本にまで影響を及ぼし始めました。
Boeingが同社の777型機について、5G通信による電波干渉を理由に飛行制限を発表し、これにより全日本空輸(ANA)と日本航空(JAL)がアメリカ便の一部を欠航する事態となっています。
世界のエアラインとFAAが反対したにも関わらず、FCC(Federal Communications Commission)はVerizonとATTに対して、米国にある空港のアプローチパスの下に5G基地局の設置を認めました。
2020年にRTCA(Radio Technical Commission for Aeronautics)は、悪天候時に必要となる電波高度計への5G基地局がもたらすリスクに関してテストを行なっています。(資料リンク)Above image Source:RTCA
FAAが2021年12月23日に危険性に関してのADを発行したため、エアラインは使用する空港の天候状況に合わせてフライトをキャンセルする必要があります。
電波高度計はILS着陸システムの一部
電波高度計は機体操縦において様々な警告とフライト制御装置の重要な一部となっています。特に、ILS CAT IIとIIIの着陸システムにおいて非常に重要です。その為、自動着陸機能においてファイナルアプローチから着陸中に他の電波等から邪魔されない情報を入手し、自機の位置情報を把握することは非常に重要です。
FAAは2022年1月14日に「Continued Airworthiness Notification to the International Community – Boeing 787 Altimeter and 5G」(PDF資料)というアドバイザリーを出しており、ボーイング社は機体ユーザーに対して、着陸の最終段階において787シリーズのAutolandを「AIR」から「GROUND」モードに切り替える際に影響を受ける可能性について警告しており、スポイラーやスラストリバーサーなどが正しく展開されない場合、滑走路オーバーラン等につながるとしています。
FCCと通信業界とそれに対するFAAとエアライン業界の闘いは、2020年にFCCが3.7〜4.2GHz帯を一部使用し電話通信するとし、後に3.7〜3.98GHz帯を5Gで使用することを決定した時に始まりました。
世界的に使用している電波高度計で使用する4.2〜4.4GHz帯と202MHz違いです。長い協議の後、RTCA(Radio Technical Commission for Aeronautics)は2020年に試験を行い、電波干渉のリスクがエアラインだけに限らず、ビジネスジェットやジェネアビ、そしてヘリコプターにも実際に影響があることを実証しています。
FCCと通信業界は202MHzの空きがあれば十分だと主張していますが、電波高度計の世界的な仕様では、これらの放射の影響を受けないようにする必要があります。5G以前の近い周波数帯域を使用していた際は、空港の侵入経路の近辺でこの種の電波干渉のリスクはありませんでした。
携帯電話ネットワークの基地局はそこら中にあり、5Gへの変更は大きな影響があります。RTCAはシカゴ・オヘア国際空港の滑走路27Lの侵入経路を使用してこの問題を示しています。(PDF資料58ページ参照ください。)ここでは着陸侵入路に5箇所の4G基地局があり、これらが全て5Gになると電波高度計が影響を受ける可能性があります。特にパイロットが視界ゼロに近い状況で着陸する(ILS CAT III)では何かのシステムが影響を受けた場合、非常に危険な状況となります。Autoland機能が影響を受ける場合は特にです。
FCCが5Gに関する決定を行った後、FAAとFCCはこの問題に関して議論してきました。FCCと通信業界は他の国で問題は起きていないと主張しています。しかし、例えばヨーロッパでは、これは周波数の違いが米国の3倍の600MHz(5Gは3.6MHzで止まる)あるからです。FAAとエアラインは空の安全は『他の国では起きていない』という問題ではないと強く主張しています。徹底的な試験により干渉が起きないことを証明できない限り、安全かそうでないかを決定することができるでしょう。
この議論の結果、2021年12月末に米国運輸長官ピート・ブティジェッジがVerizonとATTのCEOへ書簡を送り1月19日の4GHzによる5Gの米国における運用開始を、3月末まで遅らせFAAが電波干渉の可能性がある空港を特定し、FAAとエアラインが安全性を確認する時間を与えるようにと伝えました。
米国の空港に向けて世界中の25,000のエアラインが利用しています。これらのエアラインに「使用している電波高度計と関連する機器を対応させなさい」というのは無理があります。
現時点で行うべきは、時間がかかりますが、空港の着陸侵入路下にある5G基地局を制限し、現在、世界中のエアラインで使用されている電波高度計を使用してチェックすることです。