ドローンによるサウジ石油施設攻撃 日本は?

サウジ石油施設攻撃に関して、2019年9月25日時点でのニュース情報から、下記のアイテムについて書いてみた。

● サウジ石油施設攻撃
● 各国の反応
● 新たな攻撃のスタイル
● 「サウジアラムコ」石油施設の防空体制
● ドローン発射地点の特定
● 使用された巡航ミサイルとドローン
● 防空システム対ドローン
● 防衛省 ドローン攻撃の対策研究を強化へ
● 日本のエネルギー施設防空の現状


サウジ石油施設攻撃

 2019年9月14日の深夜、18機以上の無人機と4発の巡航ミサイルがサウジアラビアの東部地方にある国営石油企業「サウジアラムコ」の施設を攻撃し大規模な火災が発生。 

最大の輸出大国であり、3大産油国の1つであるサウジアラビアは、同国の原油施設への攻撃の後、2分の1以上となる生産削減を行うことを表明した。これは1日当たり通常約980万バレルを570万バレル削減するという規模。

米国とサウジはこの攻撃についてイランを非難し、イランは攻撃への関与を否定。

サウジアラビアを指導部とするアラブ連合と戦うイエメンの反政府勢力(親イラン武装組織)「フーシ派」は、無人機を使用して彼らが攻撃を行ったと犯行声明を出している。

各国の反応

 エスパー米国防長官は20日の記者会見で、サウジアラビアに米兵を増派すると発表し、ミサイル防衛システムを運用する部隊が中心の数百人規模になる可能性。エスパー氏は「状況の変化に応じてさらなる増派がありえる」とも強調した。

エスパー氏はサウジの石油施設攻撃で「イラン製兵器が使われた」と説明したが、同国が実行したとは断定しなかった。

 英仏独3カ国首脳は23日発表した共同声明で、サウジアラビアの石油施設に対する攻撃はイランに責任があるとの見解を示し、イランの関与を指摘する米国に同調しています。

 ロシアのプーチン大統領は、地対空ミサイルS-300とS-400の購入をサウジアラビアに提案。米国のパトリオット地対空ミサイルシステムでは防げなかったとでも言いたいのか、皮肉な提案をしている。(イランはS-300の購入決定を行い、トルコのエルドアン大統領がロシアから最新システムS-400「トリウームフ」の購入を決定した。)

新たな攻撃のスタイル

 一施設を目標にした攻撃や、テロ攻撃はこれまでも起きてきた。日本では地下鉄サリン事件など、群衆の集まる地域を攻撃するテロ攻撃を経験しており、対策(?)は発生した後の対応という点では、対処する訓練が行われている。(持ち物検査などほぼ不可能な為、発生を未然に防ぐというものでは無いが) 米国では、9.11を機に航空機の利用は昔が懐かしく思えるほどの、搭乗前検査と米国への入国を制限する様々な法律が作られ、城の周りの堀は深くなっている。

(病原菌や、サイバー攻撃もあるが)今度は堀の上を飛び越える飛行物体、それも無人で大軍をなす攻撃が新たな脅威となっている。

ドローンは実戦で積極的に利用されており、ロシアもウクライナとの衝突では、砲撃部隊の着弾確認のスポッターとして使用した。

 今回の石油施設への攻撃は複数のドローンと巡航ミサイルを使用したドローン群の攻撃で「Swarm Attack」と呼ばれる。以前の記事でも米国の実験に記事を取り上げた。小型のドローンは防空レーダーに種類によっては探知が難しく、仮に探知できたとしても「ドローン群」として対空システムで対処できる数を超える飽和攻撃を行うことができる。それをまさに見せつけた攻撃である。

「サウジアラムコ」石油施設の防空体制

 サウジアラビアも何もしていなかったかというとそうでもなく、国家の重要資源として防空システムを配備していた。衛星画像でも配備されていた形跡はあるが、攻撃発生時に機能していたのかはわからない。サウジアラビアが配備していたシステムは、フランスのクロタル(Crotale)対空システムをサウジアラビア向けに改造したシャヒーンシステム(Système Shahine)が数基、パトリオット防空システムが少なくとも一基配備されていたと思われる。

ドローン発射地点の特定

 現時点で発射地点の特定はできていない。発射地点については、複数の説がある。イラン、イラク南部、イエメン、ペルシャ湾など。

イエメン反政府勢力(親イラン武装組織)「フーシ派」が主に支配しているのはイエメンの北西部(紅海側)であり、サウジアラビア東部Abqaiq(アブーカイク)にある国営石油企業「サウジアラムコ」の施設まで、1250km程ある。支配地域の一番北東位置にある場所からでも850km程。

イラク南部からサウジアラビアに向けて飛行するドローンを捉えたとするビデオがSNSで見られたが、そのイラク南部から、もしくはイラン南西部からAbqaiqまでは530km程ある。ペルシャ湾を挟んでイラン領内の一番近い点からであると320km程の距離となる。

SAUDI ARABIA MINISTRY OF DEFENSE

ペルシャ湾から貨物コンテナに収納し、海上から発射したという可能性もある。

ドローンの残骸の状況にもよるが、GPSデータ等が残っていれば、航跡データ等を取得することができるかもしれない(ペルシャ湾での石油タンカー攻撃の自爆ドローンデータをサウジアラビアは解析している。)。

使用された巡航ミサイルとドローン

サウジアラビア政府の情報では、使用された中で、巡航ミサイルはフーシ派が2019年6月に公開した「Quds 1」と考えられる。これはイラン製の空中発射型「Ya Ali」巡航ミサイルの派生型で、地上から発射することもできる。エンジンはチェコ製のTJ100ターボジェットエンジンを搭載していると思われる。航続距離はエンジンの性能から670km程と考えられる。

これ以外に、自爆型ドローンも使用された形跡があり、「Qasef 3」というプロペラ推進の「Qasef 1」からジェット推進に変更され航続距離を増したタイプが使用された可能性もある。このタイプは航続距離が1440km程あるとのこと。

防空システム対ドローン

パトリオット防空システムや、シャヒーンシステムが今回役に立たなかったが、このような小型ドローンや巡航ミサイルへの対応できる防空システムはどのようなものがあるのか?2019年7月にペルシャ湾に展開中だったUSSボクサーに1,000yrdsまで接近したイランの無人機を米海兵隊の「防空統合システム「LMADIS(Light Marine Air Defense Integrated System)」が撃墜した。これ電波で交信電波を発している飛行物体に向け、同じ周波数を発してノイズを発生させることで相手方無人機の電波を混乱させ、誤作動を誘発させる兵器。

U.S. Marine Corps Cpl. Fernando Anzaldua III, an assistant gunner, and Cpl. Jordan Gillett, a gunner with the 22nd Marine Expeditionary Unit provide security to their light marine air defense integrated system aboard the Wasp-class amphibious assault ship USS Kearsarge (LHD 3) as it passes the Mubarak Peace Bridge in the Suez Canal. The Marines, with Low Altitude Air Defense Battalion, Marine Medium Tiltrotor Squadron 264 (Reinforced), are deployed to the U.S. 5th Fleet area of operations in support of naval operations to ensure maritime stability and security in the Central Region, connecting the Mediterranean and the Pacific through the western Indian Ocean and three strategic choke points. (U.S. Marine Corps photo by Cpl. Aaron Henson/Released)

昔ラジコンで遊んでいて、タクシー無線でラジコンが動かなくなる…経験をお持ちの読者もおられるかと思う。あんな感じでしょう。ただこの兵器は、交信電波を発しない自律航行している無人機には無力である。

この場合は、やはりレーダー等で捕捉し、対応する必要がある。撃ち落とす方法はレーザー等も研究されている。この分野に関してはNorthrop Grummanは「IBCSシステム」を開発中であり、General Dynamics社は「IM-SHORAD」を開発中だ。

(本記事を書いている最中に)Raytheonのニュースリリースで、指向性エネルギー兵器「HPM-High-Power Microwave」と「HEL-High-Energy Laser system」について記載されていた。このHPM/HELは複数のドローンを同時に無力化できる兵器で、それぞれ単独での使用と連動しての使用が可能であるとのこと。

防衛省 ドローン攻撃の対策研究を強化へ

防衛省はドローン対策として、すでに来年度予算案の概算要求に妨害電波を発信して飛行できなくする装置や、網で捕獲する機材の取得に向けた費用を盛り込んでいる。網で捕獲する機材という部分だけ読むと、所謂市販されているクアッドコプター等を捕獲することを念頭に置いているのか。サウジアラビアで使用されたプロペラもしくはジェット推進で飛行する巡航ミサイルのようなドローン、ドローン群「Swarm Attack」への対処も進められていくものと期待する。

日本のエネルギー施設防空の現状

 None Zero 皆無。日本の原発や石油備蓄基地でこのようなドローン攻撃への探知、対処(迎撃防空システム)を配備している場所はない。

日本に向けて弾道ミサイルを発射する国があればその用意は抑止力として必要であるが、なかなかそんな愚かな決定を下す指導者はいない…と願う。それよりも、国家のサポートを受けたゲリラ的攻撃の方がより現実的な脅威である。そんなことは起こり得ないのか、津波と同じく「予測できなかった」無罪となるのか。

独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構のデータ(2017(平成29)年3月末現在)で国家備蓄、民間備蓄、産油国共同備蓄は合わせて約8,104万klの石油が私達国民の共通財産としてあり、その量を備蓄日数に換算すると約208日分となる。

攻撃されて208日以内に対策を練るのか、攻撃される208日前に対策を練るのか。

今後も各国の防衛システムの動向を注視していきたい。

参照リンク:
https://news.usni.org/2019/07/18/uss-boxer-downs-iranian-drone-in-defensive-action
https://wired.jp/2019/09/24/iran-drone-marines-energy-weapon/
http://www.jogmec.go.jp/library/stockpiling_oil_003.html