今後の大型機需要

 先日、ボーイング777-9の試験2号機”WH002″が初飛行しました。
747が去りゆく中、今後ボーイングが製造する機体として最大サイズの大型機になるわけですが、COVID-19の発生前から受注は伸び悩んでいました。昨年は受注機数よりもキャンセルのニュースネタばかり見たような気がします。
エアラインからの大型機のニーズが鈍っていた中で、今回のCOVID-19が発生しました。ボーイングも大型機の減産を発表し、生産レートを現在の777&777X併せて月産5機から、来年以降はこれを3機にすると発表しました。

ーCOVID-19以前の状況ー
 過去数年間はボーイングの機体は抱えていた受注分に向けて非常に高い生産レートで製造を続けてきました。787は昨年まで月産14機体制(10→12→14と徐々に)を達成するスピードで製造を続けてきましたし、777も(記憶ですが)2012から2013年には月産8.3機のピークもあり、例えば777-300ERは2013年から2016年ぐらいまで非常に高い生産レートで製造を行ってきました。
これにより市場・エアラインには非常に新しい777が溢れています。
 近年、ボーイングのワイドボディー機は受注に苦しんできました。様々な要因がありますが、一つに、エアライン&リース会社にこれら比較的に機齢の浅い機体があり、原油価格も安いことから、エコな新型機に無理に更新する必要もなかったことがあります。

ーCOVID-19発生ー
 COVID-19の発生後に実施された旅行制限は、世界的な旅客輸送の前例のない崩壊をもたらしました。 これらの旅行制限は、COVID-19ワクチンがより多くの人々に利用できるようになるまでは継続されると思われます。ソーシャル・ディスタンスを取るためにさまざまな社会的・経済的影響がでており、旅行需要はかなりの期間にわたって抑制されたままとなります。旅客が2019年レベルに戻るには、数年かかると言われています。製造メーカーとエアラインとでかなり差がありますが、2年以上という見方や、4〜8年かかると予測するアナリストもいます。

 航空会社は、乗客の需要の崩壊により、多数の航空機をスケジュールから外し、空港に駐機させた状態です。日本でも羽田空港に多くの機体が駐機しています。海外では、空港に入りきらない機体は、砂漠の保管所などに留め置かれています。
COVID-19が収束し旅客需要が回復すると、これら長期保管されていた航空機がリースまたは割引価格で購入できるようになります。

今年初飛行した777-9は2021年以降引渡し予定です。これら新しい機体は、これまでに導入されたまだまだ寿命のある既に引き渡された機体と競争していかなければなりません。777-9はこれまで製造してきた777-300ERのビッグマイナーチェンジ版です。

2013年〜2016年の間に引き渡された777-300ERは、その多くがリース運用されており、エアラインで10〜12年程度使用されます。旅客輸送が​​回復すると、それらの航空機の多くがリースから外れます。 777-300ERのリース価格はすでに下落しており、今後数年間でさらに下がるはずです。

そして、777-9の発注をしているエアラインは、ルフトハンザを除いて、全て777-300ERのユーザーです。これらのエアラインは300ERを使用し続けることもできますし、777-9の引渡しを受けて、使用していた300ERを他のエアラインに売却するかもしれません。どちらのケースも777-9の新規販売にとっては良いニュースではありません。併せて原油価格もこのまま安値をキープした場合、777Xと比べて燃費の悪い既存777だとしてもあまり問題では無く、エアラインは古い777-300ERを使用し続ける可能性も十分考えられます。

ーまとめー
 このように、777Xプログラムの遅れがあったことは、もはやエアラインには問題では無く、あまり新しい機体を今すぐには必要としない事態です。中古機、既存機体の存在は2023〜2025年ぐらいまでは影響与え、ボーイングの大型機の低生産レートが維持される期間は長く続くのではないかと思います。

経済は回復すると共に、旅客も徐々に回復するとは思います。しかし、意外とリモートで多くのことが出来ることに気付かされた今回のCOVID-19により、収束後も旅客の数は以前と比べれば低くなる「New Normal」となるのではないでしょうか?短距離移動やLCCなどで小型機に需要は一定程度回復するとは思います。

日本の航空業界は、ボーイングの下請けで多くのプロジェクトに携わっていますが、メインは777と787であり、どちらも減産が発表された機種をメインとして製造参画しています。787はカーボンファイバーを使用した機体ですが、777はアルミの機体です。777Xは主翼はコンポジットになりましたが、日本が製造参画している部位は、アルミがメインです(ボディーフェアリング等のGF材もありますが)ので、多くの金属加工下請け会社にもボーイングの減産の影響がでてくることになります。

COVID-19により既に経済への影響がでていますが、航空業界の中でも、先にインパクトを受けたエアラインに続き、機体製造メーカーも時差攻撃を受けるでしょう。

厳しい時代がやってきます。